- 年代30代後半
- 現職横断SREチーム リードエンジニア
複数プロダクトを支えるプラットフォーム領域を担当し、オブザーバビリティや基盤改善を中心に横断的に活動。
- キャリアSIer → 事業会社SRE
新卒でSIerにてWebアプリケーションのバックエンド開発を担当(Java / Go)。要件定義〜設計〜運用までを一貫して経験し、チームリーダーも務める。内製のスピード感と価値提供の近さを求め、事業会社のSREへ転身。
- プライベート観測が好きなタイプ
個人開発で観測系ツールをつくるのが趣味。自転車通勤と夜の散歩が気分転換。
キャリアの源流 ― SREにたどり着くまで

エンジニアとしての基盤をつくったSI時代
最初のキャリアはSIerで、Webアプリケーションのバックエンド開発を中心に担当していました。技術選定から要件定義、運用まで一連の工程を経験できたことは、自分にとって大きな糧になっています。
特に、チームリーダーとしてプロジェクトを進めるなかで、「技術の正しさ」だけでは物事が動かない場面に何度も出会ったことが、いまの価値観につながっています。
内製のスピードと価値提供の近さを求めた転身
転職を決めた理由は、単純に「もっと自分の技術がユーザー価値に近いところで役立ってほしい」と思ったからです。
内製プロダクトだと、自分の改善がそのままユーザー体験に反映されますし、開発組織全体の働き方も見渡せる。SREへの転身は自然な流れでしたが、振り返ると“技術と組織の両方に関心があった”自分にとって最適な選択だったと感じています。
横断SREとして、何を支え、何を観ているのか
複数プロダクトを支える“土台づくり”が中心
現在は横断SREチームの一員として、複数のプロダクトが共通で利用する基盤の整備を担当しています。Kubernetes基盤の改善や、観測性を高めるための仕組みづくり、GitOpsによるリリースフローの再設計など、土台となる部分を扱うことが多いです。どのプロダクトでも「同じ問題が繰り返し起きないための仕組み」をつくるのが、自分の役割だと捉えています。
技術判断だけでなく、チームの“選び方”まで支える
横断SREの仕事は、技術だけを扱っているように見えて、実際は“意思決定の支援”に近い場面が多いです。例えば、新しいアーキテクチャを導入するときも、「技術的に正しいか」だけでなく、「チームの学習曲線はどうか」「運用の負荷はどれくらい増減するか」といった視点が欠かせません。各プロダクトチームが無理なく前に進めるよう、選択肢の整理やコミュニケーションの下支えをするのも、大事な役割だと感じています。
現場で向き合う課題 ― “いま何が起きているか”を観測する
技術の問題よりサインとして現れる課題が多い
現場で向き合う課題は、必ずしも技術的なバグや性能劣化のように明確な形をしているわけではありません。
むしろ、開発速度が少し落ちている、レビューの回りが悪い、インシデントの報告が断片的になる――そんな「小さな違和感」として現れることが多いです。それらは数字やグラフには出にくいですが、放置するとチームの負荷やリスクにつながる“サイン”でもあります。横断SREとして、その揺れを拾いにいくことを大事にしています。
正しい解決より、“関係が前に進むこと”を優先する
課題に向き合うなかで意識しているのは、「技術的に正しい解決策」を押しつけないことです。プロダクトチームの状況、優先度、技術スタック、運用のクセ――それぞれの文脈によって、同じ対策でも重さが変わります。
大事なのはチームが納得して前に進める状態をつくること。横断SREとして、選択肢を整理したり、不安を言語化してもらったり、“関係”が前に進む支援をすることに価値があると感じています。
SREとして大切にしている価値観と、育てていきたい文化
「正しさ」よりも「納得して前に進めること」
SREというと、技術的な正しさやアーキテクチャの美しさに意識が向きがちですが、自分が大切にしているのは“チームが納得して前に進める状態”をつくることです。
どれだけ正しい改善でも、現場が追いつけなかったり、運用負荷が跳ね上がったりすると、やがて形骸化してしまいます。だからこそ、技術的なメリットだけでなく、チームの学習速度や関係性も“信頼性の一部”として捉えるようにしています。
観測し合える文化が、信頼性を支える
もうひとつ重視しているのは、チーム同士が“観測し合える関係性”をつくることです。例えば、あるプロダクトの改善が滞っているとき、ただ「遅れている」と判断するのではなく、なぜそうなっているのか、背景まで丁寧に見にいくこと。その観測の積み重ねが、横断的な信頼につながります。
文化としても、失敗を責めずに学びとして扱う、ポストモーテムの姿勢を広げたい。信頼性は仕組みだけでなく、人同士の対話でようやく育つものだと感じています。
マネジメントとチームとの関わり方 ― “支える”というリーダーシップ
メンバーが「自分で判断できる状態」をつくる
マネジメントで一番意識しているのは、メンバーが自分で判断し、進められる状態をつくることです。
タスクを割り振るだけではなく、「なぜそれをやるのか」「どんな価値につながるのか」まで見えるようにすると、自然と主体性が育っていきます。SREの仕事は判断の連続なので、スキルより先に“考え方”が育つ環境を用意することが、リーダーの役割だと考えています。
関係性の“温度”を下げないコミュニケーション
横断SREは、複数のプロダクトチームと向き合う立場です。そのため、技術的な提案だけではなく、相手チームの状況や不安を丁寧に拾うコミュニケーションが欠かせません。
特に意識しているのは、相手の温度を下げないこと。否定から入らず、まず状況を聞き取って、成功条件を一緒に整えていく。結果として、改善がスムーズに進むだけでなく、「SREに相談すると前に進める」と信頼してもらえるようになります。
SREの未来と、これから描いていきたいキャリア
“壊れにくさ”より、“気づきやすさ”を設計する時代へ
これからのSREにとって重要なのは、システムの「壊れにくさ」だけではなく、「壊れたときにすぐ気づけるか」という観測の設計だと考えています。
プロダクトは複雑化し、AIや外部依存も当たり前になってきた中で、すべてを完全に制御することは難しくなっています。だからこそ、気づきやすい構造、対話が生まれやすい文化、学習し続けられる仕組みをつくることが、SREの価値としてさらに大きくなるはずです。
“自分がいなくても回る仕組み”をつくるSREになりたい
個人としては、チームや組織が「自分がいなくても回る状態」をつくることに、今後もっと力を入れていきたいと思っています。
特定の個人に依存している状態は、一見効率的に見えても、長期的な信頼性にはつながりません。知識や判断軸を共有し、誰が見ても分かる仕組みを整える。
その積み重ねで、チーム全体が強くなるはずです。SREという職種は、技術の幅も広く、キャリアの方向性も多様ですが、共通しているのは“プロダクトと組織の両方を良くする姿勢”だと思います。その姿勢をこれからも大事にしていきたいです。
インタビューを終えて
そして、信頼性を支えるのは仕組みだけではなく、対話が前に進むための“場”や“選択肢”を整えること。その積み重ねが組織の未来を形づくっていく。そんな確かな実感を持てる時間でした。
このインタビューが、SREをめざす方や、いま現場で奮闘する方にとって、小さくても手触りのあるヒントになればうれしいです。
